コールドゲーム

コールドゲーム (新潮文庫)

コールドゲーム (新潮文庫)


 中学時代に「いじめ」られていた男子生徒が当時のクラスメイト達に復讐をする。出席番号順に。骨を折り,学校の屋上から突き落とし,飼っている犬を殺し,ネットにコラのヌード画像をばらまく。そしてそれに怒りを感じて立ち上がるのは当時その男子生徒をいじめていたグループ。どこに感情移入してよいのか分からないまま物語は進んでいくのです。ただ,この小説で一番面白いのは,いじめにおける「傍観者」に居た生徒たちが復讐されることに疑問を感じるシーンだと思うのです。


 「なんで僕が?」という驚きは,所詮他人を理解することを出来ない人間の物悲しさを代弁しているような気がしました。クライマックスのシーンで「いじめ」られていた男子生徒のノートに綴られていた言葉。

 「できるのに何もしなかった罪」「見ているのに見なかった罪」

 そして,それに対して自分は傍観者で直接手を出していなかったと思っていた主人公が怒りを覚える。

 ふざけるな!できるのに何もしなかったのはお前も一緒じゃないか。お前だって見てるのに見えていなかった。俺だって怖かった。俺だっていじめに遭ったことがあるんだ。勝手に死ぬな。勝手に人に頼るな。自分のことを救えるのは自分だけだ


 賛否両論あるだろうけど,俺は主人公に共感を覚えます。読んだ人は共感してもらえるかもしれないけど,この物語の裏の主人公は光也ではなくドカだと思う。



 それにしても,解説で石田衣良も書いているけれど,この人の小説は安定していて,それでいて読んでいてドキドキする。まだ続いていて欲しい,読み終わりたくないと思う作家の一人です。